【番外篇】おひとりさまにもやさしい、滋養に満ちたスープが主役のフードコミック


写真・左:『オリオリスープ』1巻(講談社刊)綿貫芳子/著、新上ヒロシ+粟村佳苗(ナルティス)/装幀 2015年10月23日第1刷発行 ¥680(税別) 写真・右:オリオリスープ』2巻(講談社刊)綿貫芳子/著、新上ヒロシ+粟村佳苗(ナルティス)/装幀 2016年5月23日第1刷発行 ¥680(税別)

どうも、ごぶさたしております。「ひとり古川日出男まつり」の開催予告をしたものの、『新潮』誌で連載がはじまった『ミライミライ』が思いのほか難作で(※当社比)、過去作品にも目を通し始めたら収拾がつかなくなってしまいました。いやぁ、古川作品をなめていましたね。『あるいは修羅の十億年』(集英社刊)が、ものすごく読みやすかっただけ余計に。

まつりを開催できるようになるまで少し時間がかかりそうなのと、ちょっと個人的な事情もあり、今回は【番外篇】として綿貫芳子さんの漫画作品『オリオリスープ』(講談社刊)をご紹介いたします。

よしながふみ先生の『きのう何食べた?』(講談社刊)にはじまり、レシピ紹介も作中に含まれたフードコミックが色々と刊行されている昨今。『きのう何食べた?』みたいに日常生活において重宝するレシピ満載の作品もあれば、『花のズボラ飯』(秋田書店刊)のように〈ひとりごはん〉に特化した作品、さらには山ガールならぬ〈単独登山女子〉がつくる〈山食〉に特化した『山と食欲と私』(新潮社刊)など一風変わった作品もあったりと、フードコミックというジャンルそのものがデパ地下に負けないくらいバラエティ豊かな状態で、食いしん坊な漫画好きにとってはたまらない時代になりつつあります。

そんな数ある作品の中で、スープ(正確には主人公の織ヱが言うところの「汁気の多いもの全般」)に特化したフードコミックが、この『オリオリスープ』。ブックデザイナーである主人公・原田織ヱがつくる、旬の食材をたっぷり使った四季折々のスープが登場する作品です。タイトルに「おひとりさまにもやさしい」と書いたのは、ずばり作中に登場するスープのほとんどが具沢山で、〈汁物兼おかず〉いわば〈一品料理〉として成立するものばかりだから。

そりゃあ『きのう何食べた?』のシロさんみたいに、一緒にごはんを食べてくれるケンジのような素敵パートナーがいれば、主菜・副菜・汁物・主食を組み合わせた献立にしますよ。しかも「あまからすっぱいの バランスが取れてて 一品一品の味もいい」(『きのう何食べた?』1巻より)ものにして、「一汁三菜の献立の時は 『少なくとも 二品はノンオイル ルール』」(同11巻より)だって実践してやろうじゃありませんかっ!!(※シロさんが完璧すぎるゆえに逆ギレしている、行き遅れたアラフォーの姿を想像しながらお読みください)

しかしですよ、こんな完璧なシロさんですら、ひとりでのごはんとなると「一人メシかあ…(中略)そーだ ケチャップいい加減 使ってやらんと ナポリタンにでもするか」(同4巻より)となって、食べ終えた後に「そういえば 一人の時は けっこう こんなもんだったなあ 夕飯なんて」「ケンジと 暮らしてるから 俺も毎日 ちまちまおかず 作ってんのか」とモノローグを展開しちゃうのが、ひとりごはんの現実ですよ。

だからといって『花のズボラ飯』に登場するようなズボラ飯に逃げてしまうと、健康面が(特にアラフォーは)不安。しかし『オリオリスープ』に登場するスープのレシピは、旬の食材を使っている、野菜もしっかり摂れる、何より料理スキルがそこまで高くなくても失敗なく作れると、もう花丸満点をつけたくなるほど「おひとりさまにもやさしい」ものばかり。シロさんが「豆入りミネストローネ。」「にんじんとセロリとじゃこのサラダ。」「明太子スパゲティ」(同2巻より)を組み合わせようとも、我らおひとりさまは「冬野菜のミネストローネ」と「ハムとチーズのトースト」(『オリオリスープ』2巻より)を組み合わせるだけで、十分立派な食事になるんですよっ!!(※またもや逆ギレ)

……なんか、こうして書いていると『オリオリスープ』の主人公である織ヱがかわいそうなアラフォーだと勘違いされそうなので言っておきますが、彼女は26歳とまだまだ若く、「おめえさん 発想と色彩感覚は 抜きんでてるよ」と上司にも才能を認められているブックデザイナー。「その名で 飯が食えるほど 引く手数多の 日本画家」であった彼女の亡き祖父に言わせると、幼少の頃から「何かに夢中になると 周りがこれっぱかしも 目に入らなく なっちまう」アーティスト気質ゆえ、決して要領良く仕事をこなせるタイプではないので、事務所に泊まりこんじゃうこともしばしば。そんな事務所には2口コンロのある給湯室があり、織ヱがそこでスープをつくるエピソードも多々描かれます(というか1話目から早速つくって、同僚の弥燕(ビエン)くんをイラつかせてしまう)。

そんな織ヱのスープづくりと共に進行する物語ですが、1巻でほのめかされていた家族との謎めいたわだかまりが、本日(5月23日)発売された2巻で明らかになり、尚かつドラマチックな形で、家族との関係を描いたエピソードは大団円を迎えます。しかも1巻から2巻にかけて、四季が一巡するという時間の流れで。

なので『オリオリスープ』に興味をもたれた方がいましたら、ぜひ1巻と2巻を同時買いして、一気に読み進めることをオススメしたいです。本を買うことに対して慎重な方は、1巻に収録されている第1話から3話までを読める、講談社のWebコミックサイト『モアイ』にて試し読みをしてみて、購入するか否かを決めるのが良いかと思います。

ちなみに作中に登場するスープですが、そのレシピのほとんどが目分量。「えーっ?!」と思われる人もいるでしょうけれども、目分量だからこそ実際につくるときのハードルが高くないのだと私は思っています。でも料理に対して慎重な方もご安心あれ。なんとあの『クックパッド』には『オリオリスープ』の公式キッチンという素敵なページがあり、全てのスープではないですが詳細なレシピが紹介されているのです。なので〈試し読み〉ならぬ〈試しスープづくり〉してから単行本の購入するか否かを決めるのも面白いかと。

あと、お気づきになられた方かもいるかもしれませんが(いや、多分いない)、このブログでは「ひとりの作家さんにつき、2つの作品をセットにして紹介する」というスタイルを基本としていますが、今回の記事に限っては『オリオリスープ』という1つの作品を紹介するイレギュラーなスタイル。なぜかと言うと、この『オリオリスープ』が作者の綿貫芳子さんの商業デビュー作品だから。そう、まだデビューして間もない作家さんなのです。

にも関わらず、魅力的なキャラクターづくり、読み手を自然と惹き込ませる物語、そして絶妙な伏線の張り方で「本当に新人作家さん?!」と驚かせてくれる綿貫さん(ついでに書くと、2013年に第64回ちばてつや賞で佳作を受賞した『ヘミスフィア』も珠玉の作品!)。そんな彼女の作品をリアルタイムで楽しめるのは、同時代を生きる人間にのみ与えられた特権ですから、このうれしい権利を余すことなく享受しないと本当に勿体ないと私は思うんですよ。食べ物のおいしい旬を逃してしまうくらいに。

そんな様々な〈おいしさ〉あふれる『オリオリスープ』、ぜひ一度ご賞味あれ。「疲れてる時や 元気が出ない時 一口飲むだけで 心も体もあたたまる」滋養あふれるスープのような作品です。