時の詩人が紡ぐ、リリカルな青春小説 【前篇】

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【BOOK DATA】
写真・左:『渦森今日子は宇宙に期待しない。』(新潮文庫nex刊)最果タヒ/著、西島大介/カバー装画、川谷康久(川谷デザイン)/カバーデザイン 2016年3月1日発行 写真・右:『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』(講談社刊)最果タヒ/著、大槻香奈/装画、佐々木俊/装幀 2015年2月24日発行


ここ数ヶ月、文芸誌やファッション誌などで彼女の名前を見かけないことがないーーと言い切ってもよさそうな詩人・小説家の最果タヒ(さいはて・たひ)さん。彼女のことが気になっている人も少なくないと思います。

詩を書いている過程を録画したGIFアニメ『詩っぴつ中』、迫り来る詩の言葉を撃ちぬくシューティングゲーム『詩ューティング』、詩の言葉のかたちが音楽になる新感覚ミュージックシーケンサー『詩ーケンサー』、話しかけると自動で詩の断片が帰ってきて詩を共作できるLINE公式アカウントなどを、自身のサイトをはじめとするデジタル媒体でリリースしている最果タヒさん。

いわゆる“詩人”というよりも“メディア・アーティスト”の印象が強かった(ように少なくとも自分には思えた)最果タヒさんですが、2015年に詩集『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア刊)が現代詩花椿賞を受賞されてからは、実に様々な媒体に登場されるようにもなり、グッと身近な(と一方的には思える)存在に。4月22日には新詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(リトルモア刊)が発売されることになっており、今後さらなる脚光を浴びることになるであろう、まさに“時の詩人”といった存在。

そんな最果タヒさんの作品に興味がある。でも「詩集」って買ったことないし、なんか自分には格調が高すぎるような気がして……と、彼女の詩集をなかなか手を伸ばせずにいる人も多いような気がします(私だけ?)。そんな人に、ぜひ読んでいただきたいのが最果タヒさんの小説作品『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』(講談社刊)と『渦森今日子は宇宙に期待しない。』(新潮文庫nex刊)です。

彼女にとっての初めての長篇小説である『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』は、月刊少年マンガ雑誌『別冊少年マガジン』2012年2月号〜2013年10月号に連載された『魔法少女WEB』を改題かつ全面的に改稿して単行本化された作品。そして『渦森今日子は宇宙に期待しない。』は、文芸誌『yom yom』vol.37〜39に掲載されたものを改稿して、2014年8月に新潮社がリリースした新しい文庫レーベル〈新潮文庫nex〉にて文庫本化された作品です。

あらすじや読みどころに関しては長くなってしまうので【中篇】と【後篇】にてご紹介しますが、なぜ彼女の小説をオススメしたいのか。それは“詩”というフォーマットの作品に慣れていない人でも、彼女が言葉で紡ぐ世界を、より分りやすい形で感じることができるから。そして最果タヒさん自身、『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』のあとがきで……


言葉が失ってきたもの、軽卒な言葉が、切り捨ててきてしまったものを、物語で拾い集めていく。

……とも綴っているから。ちなみに、このあとがきも、まるで詩のように美しく、“物語”や“言葉”が好きな人なら一瞬にして彼女の作品に恋してしまう程の魅力に満ちているので、ぜひ読んでいただきたいです。

なので、なかなか“最果タヒ作品デビュー”を果たせないでいる人は、まずは『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』もしくは『渦森今日子は宇宙に期待しない。』を読んでみて、その作品世界にスッと入れたり、面白いと思ったり、楽しいと感じたり、“私も17歳のとき、こんな気持ちだった”と共感してから、詩集を手に取ってみるのが良いと思います。きっとその読書体験は、“詩”という新しい世界への冒険における心強いお守りみたいな存在になってくれるはずです。