時の詩人が紡ぐ、リリカルな青春小説 【中篇】


【BOOK DATA】
写真・左:『渦森今日子は宇宙に期待しない。』(新潮文庫nex刊)最果タヒ/著、西島大介/カバー装画、川谷康久(川谷デザイン)/カバーデザイン 2016年3月1日発行 ¥1,500(税別) 写真・右:『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』(講談社刊)最果タヒ/著、大槻香奈/装画、佐々木俊/装幀 2015年2月24日発行 ¥550(税別)


【前篇】では“最果タヒ入門書”として彼女の小説作品をおすすめしたい理由について書きましたが、「2冊あるけど、どっちを先に読むのがいいの?」とか「2冊は読めそうもないんだけど…」とか言われそうなので、この【中篇】からは『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』(講談社刊)と『渦森今日子は宇宙に期待しない。』(新潮文庫nex刊)のあらすじなどをご紹介します。
(※本当は【後篇】として、2冊ともご紹介しようと思っていたのですが、文章が長過ぎるので【中篇】【後篇】に分けることにしました。すみません)


まず両作品の共通点は、主人公が女子高生ということ。ただ『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』の主人公である織田日明(おだ・あかり)は高校1年生で、『渦森今日子は宇宙に期待しない。』の主人公である渦森今日子(うずもり・きょうこ)は17歳の高校3年生と、年齢に少し差があります。ついでにいうと、織田日明はインターネットの力で変身する魔法少女で、渦森今日子は任務を放棄して地球での女子高生ライフを満喫している宇宙人(本名メソッドD2)だったりします。

この設定に「え〜っ?!」と、ひるんでしまう人もいるかもしれませんが、大丈夫。どちらの作品も冒頭10行くらいで一気に作品世界に引き込まれますし、さらに織田日明も渦森今日子も魔法少女であったり宇宙人であったりすること以外は、いたって“普通”の女子高生ですので。

そして、もうひとつの共通点が、どちらの物語も主人公が“選択の責任を背負う”ことによって、人間として成長することがテーマとなっていること(今日子は宇宙人だけど)。でも、“選択”することを彼女たちに決断させるものがそれぞれ異なっていて、この違いが読み手の好みと作品がマッチするか判断する良いポイントになると思うので、ここからは作品ごとに物語を紹介していきます。

まずは『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』。ひょんなことで魔法少女となり、「インターネット上におきる犯罪やいじめを媒介にして人類から抽出された悪意が結晶化した存在」という魔物を退治することになった日明。

魔法少女と聞くと『プリキュア』や『まど☆マギ』みたいなキラキラした特別な存在を連想しそうですが、日明に関してはそんなことはなく「低いテンションで魔物を焼いたり裂いたり、しかも魔物は弱いから、やりがいもないんだよ」と、キラキラ感も特別感もゼロ。すがすがしいほどにゼロ。そして彼女自身も「ただちょっと他より強くて頼れるだけのどこにでもいる普通の女子高生なんだ」と自分の平凡さを自認している。

そんな日明のどこかドライな(もしくは、特別なはずなのに平凡な)魔法少女の日々は、安楽椅子探偵と名乗り、なおかつアンドロイドの安楽栞(あんらく・しおり)との出会いをきっかけに変化。気付いたら国家レベルともいえる陰謀にまで巻き込まれていた! と、ハイスピードで物語は展開していきます(少年マンガ雑誌での連載小説らしい設定といえば、そうでもある)。

その中で日明が“選択の責任を背負う”決断をさせるのが、友情。「感情に走って、好きなように信じる物を選んで、失敗して、ごめんねー! って女子高生みたいに(女子高生だけど)軽く謝ってすませ」ていた日明が、「自分の人生だもん。最後は自分で責任とるんだから、選択も自分でしていくに決まってるじゃん」と言い放てるほど成長できたのは、短期間ながらも栞との間に育まれた友情とも呼べる関係があったからこそ。

なので青春時代の友情を描いた物語が好きだったり、SF作品を読み慣れている人には、まず『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』を読むのがおすすめ。作中でのインターネットや、ロボットや、AIの扱われ方も、デジタル・メディアで作品を発表していた最果タヒさんならではと感じるので、SF作品好きの人にも楽しんでもらえるかと(でも〈SF=サイエンス・フィクション〉ではなく、どちらかというと藤子・F・不二雄の造語である〈SF=すこしふしぎ〉に近いので、フィリップ・K・ディックとか読んでない人でも大丈夫)。

既にかなり長くなってしまっていますが、続く【後篇】では『渦森今日子は宇宙に期待しない。』についてご紹介します。ちなみに3月に発売されたこの作品は、卒業シーズンを控えた時期に読むのに実にピッタリな物語でした。でもリアルな高校生だったら、物語の設定と同じ初夏(6月)に読むと、さらにグッとくるような気がします。その理由については【後篇】にて。